2011年4月11日月曜日

10 April. 2011 グラズエモデル


私には夢がある。
この任地でみる夢。ここで、いつか実現されたらと願っていること。
目標というには少し道のりが遠く、任期の2年の中ではおさまらないので夢と呼ぶことにしている。

それは、「グラズエモデル」を普及させること。

グラズエというのは自分の任地の名前。
小さな中部の都市で、ベナンの観光マップを見ても名前は出てこない。
有名なのは、週に一回開かれる巨大な市とヤム芋の名産地ということだけ。
こんな小さな町だけど、ここからベナン全国で模倣できるような学校保健にとりくむ地域の組織体制モデルを生みだす。そして、そのモデルを全国に普及させること。
それが私の夢。

グラズエモデルを一言でいうと?
―地域学校保健委員会を中心として、都市全域を組織化し、学校保健の取り組みを包括的かつ一元的に行う地域体制。

つまり、学校保健委員会の名のもとに関係者が集い、情報や問題の共有、計画立案を行う。
関係者は、会議での決定事項を各々の業務に取り入れたり、それによってお互いの業務を連携させたりする。
そして、委員会加盟校の校長たちは、それぞれの地域のリーダーとして周りの数校を管轄、指導する使命をもつ。よって、会議での決定事項がグラズエの全ての小学校に反映される。
ざっくり言えば、こういう仕組みのこと。

グラズエモデルの重要な構成要素は、次の3つ。

①司令部としての地域学校保健委員会
地域の学校保健分野におけるブレイン。司令部。
現段階での構成者は、視学官、全教育指導主事、複数の小学校の校長(一名幼稚園)、父母会会長、保健センター衛生担当主事、同センター衛生担当官、村落隊員、看護師隊員。
これら学校保健の関係者は、この委員会の会議において考えを出し合い、見解を統一させる。
ここは関係者間の相互理解と連携を生みだす場でもある。

②学校保健分野における地域責任者
これは、有志の小学校校長たち。
この有志の代表団である校長たちは、学校保健委員会の委員であって、定期的に行われる会議に出席する。彼らは、会議やその他の活動を通して学校保健分野に関する知識や考えを深め、他の学校の校長を指導する。また、委員の学校はモデル校であり、パイロットプロジェクトを先駆けて実行にうつす。責任者の数は③の状況による。

③これら責任者による地域での指導および管理体制
委員の校長たちは、自分の学校のある地域のリーダー、つまり責任者である。それぞれのリーダーは、各地域内の5~10校を管轄する。すなわち、委員会で決定した取り組みを自分の受け持っている学校に対して実行したり、課題に応じて指導する。グラズエの150の学校全部をカバーするには、約30校くらいの校長を委員とする必要性がある。

このグラズエモデルの構想が生まれた背景には、
「人材の不足」「組織体制の不備」という二つのキーワードがある。
地域の学校を調査しながら見えた問題は、まず学校保健を専門的に取り扱っている役職が地域に存在しないことだった。
視学官、教育指導主事、校長、父母会会長、いずれの業務の中でも学校保健は努力規定にすぎず、具体的目標や計画が職務規定に記載されていない。
これに対して、保健センター衛生担当主事は学校保健を職務として取り扱う。けれども、同時に他一般の衛生問題や災害対応なども担当しているし、彼一人で150の学校に対してできることは物理的に限られている。
つまり、ベナンの地方都市には主体的に学校保健分野を担う人材が足りない。
そして並んで問題だと思ったのは、部分的にでも学校保健に関わるこれらの役者が各々バラバラに働いていることだった。関係者間で、この分野に関する情報共有や意見交換をおこなう場がないため連携がとれていない。
統一された方針や役割分担がないので、どうしても各々の取り組みが生みだす効果が小さい。
つまり、学校保健にとりくむ組織体制が存在していなかった。

そんな現状から、①②の案を考えた。そして、③の、リーダーを中心に全地域を組織して全学校を取り組みに巻き込んでいくというのは、委員会で校長たちが自ら発案したもの。

こうして、グラズエモデルの鋳型は完成した。

このモデルによって、まず、委員会内での情報共有から、関係者たちが現場の実態にあった取り組みを実現できる。委員会を通じて、それぞれの立場の違いを活かした役割分担ができる。また、全グラズエで統一された企画をうちだすことが可能になる。次に、有志の校長たちのリーダー的役割とこの協調体制によって、地域の人材不足の埋め合わせができる。最後に、これらリーダーがそれぞれの地域を管轄することで、全ての学校に委員会の決定事項を現場レベルで反映させることができる。
こうして、このモデルは、全グラズエでの一元的で包括的な学校保健の取り組みを可能にする。

けれども、グラズエモデルの構想はこれでは完成しない。
それは、持続性の問題。
JOCVがいなければ機能しない組織体制ではダメだ。
最終的には、今は視学官事務所が管理するこの委員会を委員の校長の手にゆだね、自治的な組織に確立させる必要がある。そして、私が行っているこの委員会の調整や運営業務を移転する。
ただ、有志に頼るのは現実問題厳しいので、ベナン政府にこの組織を公式に認めてもらうよう働きかけることも必要だろう。たとえば、今あるPTA組織などのように。政府から少しでも予算が投入されれば、組織の機能は高まり、存在にも安定感が出る。今の政府の学校保健に対する扱いからして、相当難しいことだけど。
ただ、これはもう任期の間でできる範囲にないので妄想の域。もし自分の任期が5年くらいあったならそうした。

ベナンのどの地方都市も体制は変わらない。
だから、私はこのモデルがもしグラズエで実現できれば、どこの都市でも同じように機能すると考えている。
いつか、グラズエだけじゃなくて他の都市でも模倣され、その地域で効果をあげること。
そんなことを夢みる。

①委員会を発足、発展させる⇒②委員の地域責任者としての資質を高める⇒③これら責任者の地域管理体制を機能させる⇒④全部の学校を包括すべく委員校の数を増やす⇒⑤委員会を自治的組織に変容させる⇒⑥教育省からの認知・支持を得る⇒⑦他の都市にモデルを普及させる

そこまで到達するには、何年だろう?

自分の代でできることは、最初の①②③のステップが限界。もちろん、飛び越えて⑥⑦のステップの準備のために、他のJOCVや教育省へのアピールは同時進行で行うけれども。
残り一年の任期はあまりに短い。
私の後任の要請は既にでていて、調整員はこの委員会の機能を確立させることを要請書に書いてくれた。私がここを去っても、今築いている土台を発展させて完成段階を目指してもらえればと思わずにはいられない。なるべくわかりやすく引き継ぎ資料も残す準備をしている。
けれども、どんな活動をするかは後任の自由。JOCVの活動はプロジェクトではないし、代々の継続性は一般的に強くない。押しつけることはできない。
だから、この構想の実現に向かいながらも、やっぱり2年間で目に見える現状の改善効果を出さなければとも思う。
それでも、今の状態はこの青写真のどの段階なのか、一つ一つの自分の活動はどの段階のことを実現しようとするためのものなのかという感覚は持ちながら働いている。
それはとても楽しくて、活動に力をくれる。
このモデルの実現によって、学校保健の取り組みから取り残される学校がなくなり、結果的に多くの児童の健康状態の改善につながる、と信じているから。